みーちゃんは言葉を発しない。意思疎通も難しい。
だからこそ、視覚・嗅覚・聴覚のアンテナを常に張っているのがよくわかる。
その中でも、とくに感じるのが「表情の変化」に対する敏感さ。
本当に、怖いくらいによく見ている。
みーちゃんが支援学校を卒業して、初めて生活介護の事業所に通い始めた頃。
私は、みーちゃんがいないあいだの短時間でできる訪問介護の仕事を始めた。
時間に余裕がある仕事を選んだつもりだったけれど、実際は朝からバタバタ。
みーちゃんの支度、自分の準備、それだけで一日が始まる前に疲れてしまいそうだった。
そんなある日、みーちゃんが着替えの途中でピタッと動かなくなった。
トレーナーの袖に腕を通す前のまま、まるで時間が止まったかのように。
「どうしたの?」と声をかけても動かない。
違う服を持ってきても無反応。トイレにも行かない。
腕がだるくなっても、つらくなっても、その姿勢のまま何時間もフリーズ。ひどい時は夕方まで同じ姿勢でフリーズした時もあった。
そしてある日、「今日は休んでいいよ」とお休み用の服を持ってくると、
何事もなかったかのようにスッと着替えた。
……あぁ、行きたくなかったんだね。
気づくのが遅くてごめん。
そんな日が何度か続いて、私は仕事を休む日が増えた。
そして、最終的にその仕事を辞めることにした。
今になって思う。
きっとみーちゃんは、私の顔を見ていた。
「お母さん、仕事休めないんだよ……」
そう言わないまでも、表情や空気で圧をかけてしまっていたんだと思う。
相談支援さんにその話をしたとき、
「子どもって、親が思っている以上に表情を見て判断していますよね」
と言われて、ハッとした。
ほんとうに、そのとおりだと思う。
仕事を辞めて、収入は減った。
生活は決して楽じゃない。
でも今は、みーちゃんの穏やかな日常がいちばん大事。
表情ひとつで、子どもが我慢したり無理したりしてしまうことがある。
母の気持ちの余裕が、子どもの安心につながる。
それを心から実感している。
今は、みーちゃんの「行きたくない」も、「今日は気分がいい」も、ちゃんと受け止めてあげたいと思っている。