発語なし・重度知的障害の娘みーちゃん(22)は、医療機関に入ることがとても難しい時期が続いています。
特に
・耳鼻科
・内科
・外科など
は入口に近づくことすらできず、建物を見るだけで強く拒否する日が多いのが現状です。
ただし例外があり、
歯科だけは診察ができます。
さらに、同じ医療機関でも
クリニックは全滅なのに、大学病院のような大規模病院なら「入るだけ」なら可能
という特徴的な傾向があります。
今回は、その理由と医療につながる難しさ、そして18歳以降に直面する“主治医問題”や相談支援との連携までまとめました。
クリニックには入れない理由
みーちゃんの場合、小さなクリニックは「危険な場所」と感じてしまうようです。
次のような刺激が強く影響します。
- 空間が狭く、逃げ場がない
- 匂いがこもっている(消毒液・柔軟剤・薬品など)
- 音が反響しやすい
- 人との距離が近い
- 過去の嫌な記憶が呼び起こされる
- 自動ドア付近の空気の変化だけで拒否反応が出る
複数の刺激が重なることで、
入口の前で後ずさりしてしまい、建物に入ることができません。
耳鼻科・内科・外科の診察が難しい理由
診察行為そのものが、みーちゃんにとって本能的に“危険”と感じられるようです。
- 耳に触れられる刺激が最も苦手
- 私(母)が触っても強く拒否
- 身体を触診されると強く抵抗する
- 器具や機械が視界に入ることで恐怖が高まる
- 診察室の光・音・匂いが強い刺激となる
「建物に入れるかどうか」と「診察ができるかどうか」は別問題です。
耳鼻科・内科・外科などは、
“身体接触が必須の診察” のため、今の段階ではほぼ不可能です。
歯科だけ診察できる理由
一般的には歯科のほうが刺激が強く難しいとされますが、
みーちゃんは 障がい者歯科だけ診察が成立します。
主な理由は次のとおりです。
- 建物が白く明るい
- 空間が広く、圧迫感がない
- 独特の匂いが少なく、清潔感がある
- スタッフの動きがゆっくりで表情が安定している
- “歯の刺激”は耳に比べて受け入れられる可能性がある
同じ医療行為でも、
耳=本能的拒否
歯=耐えられる刺激
という差が出ることがあります。
障がい者歯科の環境が、みーちゃんの特性に最も合っています。
大学病院なら「入るだけ」なら可能な理由
大規模病院は、みーちゃんにとって受け入れやすい刺激になっています。
● 空間が広く、刺激が分散される
- 大きな待合室
- 高い天井
- 広い廊下
- 音が均一で一定
狭いクリニックとは、刺激の質がまったく異なります。
● 匂い・光・音が“予測しやすい”
- 白く統一された建物
- 明るく均一な照明
- 匂いが広い空間で分散される
- 人との距離感が保てる
予測しやすい環境は、安心につながります。
● 院内コンビニの存在
院内コンビニは、みーちゃんにとって
“日常の延長であり、怖くない場所” です。
- 待ち時間にお菓子を買って、外で時間がつぶせる
- 頑張ったご褒美が買える
- 行く目的ができる
- 安心できる「避難場所」になる
そのため、病院全体が“絶対に嫌な場所”にならず、
「入るだけ」なら可能 となっています。
家庭だけでは越えられない壁がある
医療拒否は家族の努力不足ではありません。
特に耳・鼻は
重度知的障害のある方にとって本能的拒否が強く、
家庭だけで克服するのはほぼ不可能です。
無理に押さえつけて診察すると
- トラウマ化
- 次回以降の完全拒否
につながるため避ける必要があります。(現在、みーちゃんはこの状態)
現実的な選択肢
● 大学病院の特別診察枠(障がい者外来)
環境の配慮が得られやすい。
● 歯科治療は必要に応じて鎮静や全身麻酔
年1回まとめて治療する家庭も多い。
● 耳鼻科の専門外来(地域により対応差あり)
ただし、耳を触らせてもらえない場合は限界がある。
● “できる日だけ・できることだけ”で良い
入口に立てた日も“成功”。
病院の敷地に入れなかった日も“学び”。
18歳以降は“主治医”が必要になる理由
発語なし・重度知的障害のある方は、
18歳を超えると 医療と福祉の両面で主治医の存在が不可欠 になります。
その最大の理由は、
✔ 区分認定(障害福祉サービスの更新)に
主治医意見書(診断書)が必須
だからです。
障害福祉サービス受給者証や医療受給者証の更新には、
- 主治医の診察
- 状態の評価
- 行動面の記録
- 医療的な見立て
が行政に提出されます。
つまり、
主治医がいないと、必要な福祉サービスが継続できない可能性がある。
しかし、みーちゃんの場合は
✔ クリニックに入れないため「主治医を持つこと」自体が難しい
という深刻な問題があります。
そのため現在は、
✔ 月2回の訪問診療(心療内科)が事実上の“主治医”
訪問診療で
- 必要な薬(軟膏など)の処方
- 健康管理
- 診断書・意見書の作成
- 行動や生活の相談
を行ってもらっています。
訪問診療がなければ、
医療にも福祉制度にもつながれません。
相談支援員との連携:どうしても受診が必要な場合
先日、相談支援員さんと通院の話をした際に、こう言われました。
「どうしても早急な受診が必要な時は、
数人で同行して受診を支援することがあります。
力が必要なら協力しますよ。」
みーちゃんのように、
病院に入れない子が急な体調不良を起こすことは十分にあり得ます。
その際、
- 家族だけでは対応できない
- でも受診しないと危険なケースがある
という状況を想定し、
複数名での受診支援体制がある と教えてくれました。
もちろん、無理に押さえることは最終手段で、
状況を見ながら専門職が判断します。
しかし、
「1人で抱え込まなくていい」
という安心を与えてくれた言葉でした。
医療につながることが難しいみーちゃんにとって、
訪問診療・相談支援・福祉の連携は欠かせない支えになっています。
まとめ
- みーちゃんは クリニックの刺激が強すぎて入れない
- 耳鼻科・内科・外科などは診察行為そのものが難しい
- 歯科だけ診察できるのは環境と特性が合っているため
- 大規模病院は空間の広さや刺激の分散により「入るだけ」なら可能
- 院内コンビニは安心材料として非常に大きい
- 医療拒否は特性によるもので、家族の努力の問題ではない
- 18歳以降は主治医意見書が必要になり、主治医の確保が重要
- 現在は訪問診療が唯一の医療ルート
- 緊急時は相談支援が複数名で支援を提供してくれる体制がある
同じ悩みを持つご家庭が、少しでも安心できますように。
次は「今、みーちゃんが急病や怪我などで治療が必要になった場合、どうする?」を書きたいと思います。
