発語なし自閉症の娘のトイレの意思表示|笑顔のサイン・カード拒否・手話を経て、23歳で初めて自分から伝えた日
発語なし・最重度知的障がい自閉症の娘みーちゃんは、23歳です。
絵カードは、見つけると隠してしまうくらい嫌いでした。
そのみーちゃんが先日、車のダッシュボードに貼った「トイレ」カードを、自分でトントンと叩きました。
促していません。みーちゃんのほうから、です。←ここ大事。
この記事では、23歳で初めて起きたこの出来事と、そのとき何が揃っていたのかを書いています。「絵カードを嫌がる」「大人になってからでは遅いのでは」と感じている方に、ひとつの記録として残しておきます。
川遊びの帰り道でトントン事件は起こった!!
その日は河原で水遊びをしました。
みーちゃんは水が好きです。夏はほとんど毎週、どこかの川に行きます。
帰りの車の中でした。
助手席のみーちゃんが、そわそわし始めました。いつものことです。私は運転しながら、次のコンビニや道の駅まであと何分かを考えていました。
そのとき、みーちゃんの手が動きました。
ダッシュボードに貼ってある「トイレ」のカードを、人差し指でトントンと叩いたのです。
え?みーちゃん、今、カードをトントンとした?教えてくれた?伝えてくれた?
嬉しさで半泣き状態のよかてん(笑)
これまでは、促されて渋々でした
みーちゃんとカードのやりとりは、ずっと一方通行でした。
私が「トイレ行く?」と聞いて、カードを見せる。みーちゃんは言われたからカードをトントン。それで終わり。
手話での「トイレサイン」もずっと続けていますが、みーちゃんからのサインはまだです。
自分から意思を伝えてくれたのは、生まれて23年で初めてでした。
絵カードは、隠すくらい嫌い
みーちゃんは絵カードが好きではありません。
小さいころ、PECS(絵カード交換式コミュニケーション)の療育にも通いました。1年通って、全くと言ってもいいほど進みませんでした。
写真カードも作りました。手描きのカードも作りました。どれも、みーちゃんの中に入っていかない感じがありました。
それくらい発達年齢が遅かったんです。
それでもいつかは手応えが・・・と続けていくと、カードと「大嫌いな病院」が結びついてしまい、拒否するようになったんだと思います。
かわいそうなことをしてしまいました。
じゃあどうする?
言葉で伝えるしかない?
手段は何でもいい。とにかく、みーちゃんが理解できるように伝えたい。
今も試行錯誤の真っ最中ですが、23歳の今は何かを視覚で伝えたい時は、その場でスマホで画像検索して見せる、その場でホワイトボードに字を書いて(ひらがなは読める)、できるだけみーちゃんに伝わるようにしています。
私が作った「どれにする?」も使っています。
参照記事→発語なし自閉症の娘に「どれにする?」と選んでもらいたくて、アプリを試作してみた
これまでの経緯:笑顔のサイン、カード拒否、手話
ここまでに、みーちゃんの「トイレ」の意思表示には、いくつかの段階がありました。
「ごちそうさま」のサインが便意だった日
みーちゃんが「ごちそうさま」の合図(手を合わせるジェスチャー)を自発的に使えるようになったのは、5年ほど前からです。この合図が出たら、私がまだ食事中でもコーヒーを飲んでいる途中でも、すぐにトイレに連れて行くようにしています。
昔PECSの療育でこう教わりました。「自発的要求が少ない子が要求したときには、すぐに応えてください」と。その言葉が今も行動の基準になっています。
ある日曜日、家族でみーちゃんが大好きなスープバーのあるファミリーレストランへ行きました。食べ終わると「ごちそうさま」のサイン。すぐにトイレに連れて行き、席に戻りました。
ところが戻ってきてもまた「ごちそうさま」の合図。何度も手を合わせて、こちらを見てきます。しかも、笑顔で。
「さっきトイレ行ったばかりなのに。もう外に出たいのかな?」と思って声をかけましたが、いつもの”安心グッズ”も取り出しません。ずっと笑顔のまま、手を合わせ続けています。
これは何か他の要求かもしれない——そう思った瞬間、「もしかして便意かもしれない」とひらめきました。
隣にいた長女に伝えると「え?便意がある時にそんな笑顔するの?外に出たいだけじゃないの?」と半信半疑でしたが「じゃあ私が連れて行ってみる」と付き添ってくれました。
みーちゃんは基本的に外では排便できないタイプで、自宅まで我慢することが多いです。ただ、どうしても我慢できないとき——下痢のときなど——は外でもできます。
しばらくして戻ってきたみーちゃんは、とても嬉しそうな表情でした。長女いわく「便座に座った瞬間に出た」とのこと。
長女はこう言いました。「笑顔で便意を伝えるなんて、普通できないよね。私だったら絶対ムリ。笑ってるから余裕があるのかと思ったけど、そうじゃないんだね。すごく勉強になったよ。」
彼女は特別支援学校の教員免許を持っています。それでも実体験の重みは別格だったようです。表情が穏やかでも、伝えたいことがある場合がある。発語がなくても、伝える力はある。だからこそ、小さなサインを丁寧に受け止めたいと思っています。
トイレカードだけがバッグから抜き取られていた
私のバッグと、みーちゃんの外出用バッグの両方に入れていたトイレカードが綺麗に抜き取られていたのです。最初は落としたのかと思いましたが、他の荷物はそのままで、カードだけが無くなっていました。
この行動を見て、「みーちゃんにとってカードという形のサインが負担だったのかもしれない」と感じました。
みーちゃんの場合、過去にカードを提示されると病院に連れて行かれたりと、嫌な記憶しか残っていない可能性があると予想しています。こうした経験が積み重なり、カードそのものを避ける行動につながったのかもしれません。
発語がないからこそ、“カードだけを抜き取る”という行動が明確な意思表示だったと感じています。
手話の「トイレ」サインに切り替えた
トイレカードが本人の負担になっているのなら、別の伝え方を探す必要があります。そこで、手話でのトイレサインを取り入れました。
みーちゃんに手話が合っていると感じた理由は、
- カードを持ち歩く必要がなく、外出先でも自然に使える
- カードと違い、嫌な記憶と結びついていない
- 繰り返し続ければ、みーちゃんも再現しやすい可能性が高い
みーちゃんの様子を見ていると、手を動かす動作は負担が少なく、カードよりも取り入れやすいと感じました。
手話で「トイレ」を表すサインは、とてもシンプルです。手でWとCを作ります。

(illustACさんからお借りしました。)
手話なら、自分のペースで表現でき、道具に頼らず意思表示できます。手話のトイレサインを少しずつ繰り返し見せながら、みーちゃんが安心して意思表示できる方法を一緒に探してきました。
手話3か月、まだ出ない。「といれ」を目の前に貼る作戦
いちばん簡単な手話のトイレサインを毎回使うと決め、続けました。始めてから3か月経過、まだ自発的なサインはありませんでした。
ある夜、車で移動中のみーちゃんがそわそわし始めました。落ち着かない様子。もしかしてトイレ?そう思い、見つけたコンビニに走りました。トイレに座った瞬間、かなりの軟便。間に合って本当に良かった。でも、近くにトイレがなければ漏れていた可能性は高かったと思います。やっぱり、まだこちらが察している段階でした。
毎回、トイレに行くときは同じ手話サインを出す。それでも年単位の大型プロジェクトとなりそうでした(遠目)。トイレカードをカバンにつけてトイレの度に提示してみたこともありますが、自発的サインまでには至りませんでした。
それなら、もう目に入る場所に置こう。「といれ」と書いた紙を、みーちゃんが座る助手席の目の前に貼ってみよう。
車の中でそわそわしても、言葉やサインが出なくても、目の前に「といれ」の文字がある。トイレに行きたいときは、そのカードをトントンと叩いてもらう。サインを出すよりも、叩くだけのほうがハードルは低いかもしれない。うまくいくかは分かりません。でも、「見える場所に固定する」ことで、何か変わるかもしれないと思っていました。
外出する時は、私のバッグにホワイトボードセット(セリアで購入)を入れておくことにしました。外食時、「らーめん」「うどん」「おすし」など、簡単なひらがななら理解できています。ホワイトボードに書いて選んでもらい、その後は「といれ」と書いて置いておく。行きたいときは、ボードをトントンと叩いてもらう。手話のトイレサインも引き続き使いました。
発語がなくても、サインの形はひとつじゃありません。「叩く・指さす・見る」など、その子がいちばん動かしやすい体の部位から試してみるのが、案外近道かもしれません。
家では自分で行ける。外出先の難しさは、こちらが気づけるかどうか
みーちゃんは、自宅では自分でトイレに行きます。生活介護の事業所など、勝手を知っている場所でもトイレに行けます。場所がわかっている。流れがわかっている。トイレまでの動きが体に入っている。そういう場所なら、言葉がなくても自分で動くことができます。
でも、外出先では話が変わります。ショッピングセンター、外食先、初めて行く場所。トイレに行きたくなっても、どこにトイレがあるのかわからない。そして、みーちゃんは言葉で「トイレに行きたい」とは言えません。
外出中、みーちゃんがトイレに行きたい時は、はっきりした言葉では出ません。そわそわする。席を立つ。いつもと違う声が出る。落ち着かない動きが増える。正直に言うと、私でもわからない時があります。機嫌が悪いのか。待ち時間が嫌なのか。お腹が痛いのか。トイレなのか。
私は、みーちゃんに漏らして失敗する経験をできるだけさせたくありません。本人が不快な思いをする。外出先で慌てる。着替えや片付けが必要になる。その場所が嫌な記憶になる。そういう経験を、できるだけ減らしたいのです。
オムツを卒業する時のトイトレは、「トイレで排泄する」ことが目標でした。約5年かけて、9歳でオムツを卒業しました。でも、今取り組んでいるのはそこではありません。トイレでできる。でも、トイレの場所がわからないと行けない。トイレに行きたい気持ちはある。でも、それを人に伝える方法がない。だから私は、23歳の今も「トイトレ」をしている感覚があります。
半年続けて、それでもやめなかった理由
手話サインを始めて半年。結論から言うと、みーちゃんから自発的にトイレサインが出るところまでは、いっていませんでした。でも、だからといって「失敗だった」とは思っていません。
理由は、みーちゃんにとって「トイレ」という言葉や行動と、同じサインが毎回セットになることに意味があると思っているからです。特にみーちゃんの場合、こちらが思っている以上に、理解していることと、実際に表現することの間に大きな差があります。分かっているのか。分かっていないのか。できないのか。やり方が分からないのか。本人の中でどうつながっているのか、言葉で確認することはできません。だからこそ、こちらが勝手に「できない」と決めつけず、生活の中で淡々と続けるしかないのかなと思っていました。
最近、「できた」「できない」だけで考えるのをやめようと思うようになりました。そこだけを目標にしてしまうと、できない毎日にがっかりしてしまいます。みーちゃんは、みーちゃんのペースで生きています。だから今は、「今日もサインを見せた」「今日も同じ流れでトイレに行けた」「今日も一つ経験を積んだ」、それくらいの気持ちで続けています。
これは、みーちゃんの練習であり、私の練習でもあります。つい期待してしまうんですよね。でも、期待しすぎると、できなかった時に私の気持ちが勝手に落ちます。みーちゃんは何も悪くないのに、私だけが勝手に期待して、勝手にがっかりしてしまう。それは違うなと思いました。だから、期待しすぎず、でも諦めず。このくらいの距離感で続けていました。
そして、その延長線上に、冒頭の「トントン」がありました。
みーちゃんの目の前にあり、視覚に入ったトイレカード
今回みーちゃんが叩いたカードは、車の助手席の正面、ダッシュボードに貼ってあるものです。
(参考画像)

なぜ、この日だったのか
あくまで私の推測です。確かめようがありません。
ただ、この日は条件が2つ揃っていたと思っています。
1.体が冷えて、切実だった
川から上がった直後でした。一度トイレには行きましたが、体が冷えてトイレが近くなっていた可能性。
いつもより我慢がきかない状態だったのだと思います。
2.カードが、目の前にあった
困った瞬間に、答えが視界の中にありました。
目の前の、手を伸ばせば届く場所に「といれ」の文字。
この2つが重なった一瞬に、みーちゃんの中で何かがつながったのだと思います。
「これを叩けば、伝わる」
23歳、まだまだ成長しています。
これから試すこと
浮かれすぎないようにしています。1回きりで終わる可能性は十分にあります。
そのうえで、いま考えているのはこの3つです。
カードの位置は、当分このまま
とりあえず車内でのトイレサインを定着。
「トントンしたら伝わった」成功体験を増やしていく。
叩いたら、必ずすぐ応える
これが一番大事だと思っています。
「カードをトントンしたのに待たされた」が続くと成功体験に結びつきにくくなるため、当面遊びに行く場所は、コンビニがたくさんある道路を通っていけるとこ最優先で。
手話サインを続けるために参考にしている本
トイレサインを始めると決めた時に、生活介護事業所の支援員さんから『わかった!できた!親子の手話じてん』という本を教えてもらいました。
手話を完璧に覚えるためというより、みーちゃんとの日常のやり取りに使えそうなサインを探すために見ています。「トイレ」「いや」「もう一回」「ほしい」。言葉で伝えるのが難しい場面で、少しでも選択肢が増えたらいいなと思っています。
よかてんのひとりごと
みーちゃんが通う生活介護事業所、お盆期間も通所です。
土日はお休みですが祝日は通所なので、祝日・お盆なんて関係ない訪問介護職、とても助かってます。
お盆に家庭の事情で仕事できない人の代わりにシフト入って、何かあった時に休めるように貸しを作っておくぞー(笑)